【映画】『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』社会を穿つ弾丸【押井守監督作品】

(C)森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

いつもの風景。
変わらぬ顔ぶれ。
繰り返される時間。
惰性で口にするコーヒーが、
どこか歪な紋切型の1日を覚醒させる。

在りし日に抱いた贋作による効力や、
眠れぬ好奇心が引き寄せた軽薄な希望は、
デザインされた平和な社会によって、
行き場を失い、忘却の彼方へと散る。

大人になれない子ども「キルドレ」は、
残酷で猥雑、秩序立っているようで、
まるで公平を望む者の声が届かない
モラトリアムの迷宮を生きているのだ。

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社会を穿つ弾丸

(C)森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

君は生きろ。何かを変えられるまで

将来就く仕事や生涯をともにする伴侶が
予め決められており、その運命を辿るため
のみの日常が用意されていたとする。
その人生には、苦悩や葛藤はないけれど、
同時に、それを退けた先の達成感や
新しいものを希求する喜びもない。

そんなすべてがお膳立てされた人生を
望む者がいるだろうか。

もしくは、本物を越える甘美な幻想を抱く
世界の果てを知らない子どもたちや、
贋作が内奥する神秘を求めて駆けだす
情熱を乞う若者たちがいるとする。

そんな彼等の情熱が唾棄される社会を
支持する者がいるだろうか。

そんなはずはない。

ひとたび自分や他人の運命に干渉する力を
獲得してしまったのなら、愛を知って
しまったのなら、時計仕掛けの日常には、
決して引き返すことはできないはずだ。

きっと、自らの意志で生きる人生を選ぶ。

函南が放った弾丸は、社会を穿ち、
草薙が歩む道程を切り開くのだ。

『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』は、
冷徹な現実と仄かな希望の狭間において、
変化を求めて彷徨う若者たちにとって、
大切な1本となる。

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