【映画】『天使の涙』あの暖かさが永遠になるように【ウォン・カーウァイ監督作品】

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映画『天使の涙』の感想/紹介記事となります

ウォン・カーウァイ監督が1995年に制作をした香港の映画となります

傑作でした
とくにラスト4分間が美しすぎます

恋愛映画に括られる作品かと思います
人間は有限であるという儚さを描きつつも、”永遠なるもの”の美しさを映しだす
そんな特徴を前作『恋する惑星』で感じました(あわせて読みたい記事→『恋する惑星』愛の儚さ美しさ
本作においてもそれが炸裂しております、最高です

主要人物が5人で、群像劇が展開されていまして
あらすじを説明するのが難しい映画かなと思います

わたしなりに感動した部分をかいつまんで記していきます

(※若干のネタバレを含みます、おおいに執筆者の主観がまじっていることをご留意ください)

(あわせて読みたい記事→【映画&ドラマ】特集 人生を彩る物語 10選
(音声はこちら→『天使の涙』あの暖かさが永遠になるように

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5人について

この物語に登場する主要人物5人の紹介をします

殺し屋(ウォン)

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「感情抜きが最良だ」という彼は、孤独な殺し屋です
自身を”ものぐさ”な性格と認識してもいて、人と深い関係を築こうとしない人物です
また、小学生の同級生と再会した際は、面倒くさそうにしており
そのことから過去にとらわれないという面もうかがえます

エージェント(殺し屋のビジネスパートナー)

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ウォンのビジネスパートナー、殺し屋のサポート役みたいな感じです
「わざと彼(ウォン)と距離を置く、知ると興味を失うから」というセリフから
ウォンと似て、人との間に壁をつくるタイプです
ただ、ウォンの遺留品を愛でるといった行動もしていおり、変わった癖がうかがえます

「ドキドキする」女(名前がわからないので特徴的なセリフから)

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ウォンに好意を寄せる人物、ブロンドの髪形をしております
刹那的な喜びだけを求めているようにみえて
ウォンに「覚えていてほしい」的なことを言います
人の記憶に自分自身を刻みたい願望の持ち主

口がきけない男(ホー・チー・モウ)

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「毎日 大勢とすれ違う、そのだれかと親友になれるかも」
このセリフからも読み取れるように積極的に人との関係性を築こうとする人物
ただ距離の詰め方が異常で、深夜に他人の店を勝手に開いたり
求められていない施しを無理やりに強いたりしています
また、5歳で母を喪失しており、その頃から口がきけません

失恋女

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失恋の恨みに駆られている女性
ホーとともに行動します、このときホーから想いを寄せられることになる

以上の5人がこの物語の主要人物です
オムニバス形式で話しが展開していくので、いったりきたりで、話が追いづらい
ただ、恋愛という複雑さは、こうしたグチャグチャした群像劇だからこそあらわしやすい
ということもあるのかもしれませんね

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店(部屋) = 心

前作『恋する惑星』では
部屋を心に対応させて、部屋を整理する→心を変化させる
というふうに表現されていました
まさに映画的であって、美しかったです

それが今作でも多用されているように思います
店(部屋) = 心
部屋に加えて、店をそのひとつとして表現されています

このことを前提にすると、以下のことが考えられます

殺し屋については
ウォンが殺しをするのは決まって店内でした
二丁の拳銃を手に店内において標的を打ちまくるシーンが繰り返されます
これがあらわしているのは、人殺しと同時にウォンの心の閉鎖ではないでしょうか
死というのは生物の期限切れであります
この”期限”は前作『恋する惑星』で強調されていたものであって
今作においても”人を殺す”という行動が期限切れをあらわすものになっているのだと考えられます
また、中盤以降で彼は”店を開きたい”と思うようになります
これは、いまのままの生活→心を閉ざした人生
から脱却したいという心情のあらわれでしょう

エージェントについては
彼女は部屋に一人ぼっちです→これは彼女の孤独をあらわしている
彼女はウォンのビジネスパートナーであるため宿の手配や準備をしています
前作『恋する惑星』での”部屋を整える”という行動と重なります(上記したもの)
しかし、それとはやや違うんですね、なんというか歪んでいるんです
ウォンの利用した部屋で、ウォンの遺留品を手に、自身を慰めるエージェントの姿から
エージェントがウォンに対して、”ビジネス”パートナー以上の感情を持ち合わせていることが伺えます
ただ、人物紹介のところで記したように
人との間に壁をつくる彼女は現実において正直でないように思うんです
現にウォンと対面するシーンがあるのですが好意的でない、にも関わらずウォンの遺留品を愛でている
ウォンの遺留品 = 過去の物
と考えると、エージェントが現実ではなく、過去にすがる人物と見受けられます
現実ではなく過去や夢にとらわれるということは、ある種のファンタジーです
ファンタジーを生きていたい彼女にとって、ウォンの利用済みの一室は留まるのに丁度よかった
そんな感じなのかなと思います
それでもやはり孤独ですよね

「ドキドキする」女については
彼女は自分の部屋にウォンを招き入れます心に招き入れるといった感じでしょう
エージェントにくらべアグレッシブルです
ウォン「今夜限りの」に対し、ド女「恋するかもよ」です
心をオープンにしている、そんな女性です

口がきけない男については
深夜に閉店しているお店を勝手に開き、営業するという異常な行動をしております
これは人の心に無理やり押し入る、ということの比喩だと考えられます
殺し屋やエージェントに対比されるように
彼は積極的に人間関係を築こうとする性格の持ち主でした
ただ、節度をわきまえられていないといった感じです
しかし、中盤以降でそのことに気づき改心するきっかけが訪れます
それがつぎに記します失恋女との出会いですね
人を”愛する”とはどんなことなのかを感じた彼は、無断開店をやめます
自分で店を開くようになるのです、素敵ですね

失恋女については
口がきけない男ことモウと出会う女性
失恋をした彼女は、モウと一緒に恨みをはらすために
店や部屋を訪ねるシーンがコミカルに描かれていましたね
ここでもやはり店でのどんちゃん騒ぎが描かれていて
心のうちの激しさ、それは恋が原因なんだということをおもしろおかしく表現されています
終盤では、時が経ちモウが開いたお店で、モウのことは忘れ(真意は不明)、あらたな恋人と
店を去るシーンがあります
モウがショックで倒れるというのをコミカルに表現していますが、ここは素敵なシーンだとも思うんです
というのは、モウの店を後にする=モウの心を離れる ですから
モウにとっては悲しいできごと、されど失恋女の変化は確かなものだからです

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以上のように、店(部屋)=心 として、視覚的に心情へと訴えかける演出は
前作『恋する惑星』から引き継がれているものだと思いました

名シーンはラストですね、リード文で記しました4分の場面なんですが
ここでは、エージェントと口がきけない男の出会いが描かれます

ある店で、孤独に食事をするエージェント
いくらお腹を満たしても体の芯が寒いといったモノローグがはいります
画面の半分が彼女の顔で占められている
しかし、背後にはどんちゃん騒ぎをするモウの姿が描かれているのです
ショットが切り替わり、今度はモウの顔が彼女の背中とともに映される

店内、すなわち、ふたりが共有する心のなか
孤独なエージェントと積極的な口がきけない男 がいるということ
そして、後ろを気になり始める彼女

最高すぎる

その後のシーンは、ぜひ、映画を観て確かめていただきたいです

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あの暖かさが永遠になるように

この映画で示されたことは何だったのでしょうか
わたしなりの解釈を記したいと思います

5人の交錯をみて、わたしが抽出したことを1フレーズでまとめますと

”永遠なるもの”のため、孤独ではいられない、となります

殺し屋が店を開こうと思い出したように
エージェントが最後、人の暖かさを感じたように
「ドキドキする」女が自分を誰かに覚えていてほしいと願ったように
口がきけない男が父をビデオテープにおさめたように
失恋女が変化をし新たな恋愛に踏み出していたように

人は孤独ではいられない
孤独でない状態とは、”忘れられない存在となること”を意味します
記憶”がキーワードです

そして、そのための””を描いた物語なのではないでしょうか
忘れる ↔ 愛する であります

ただ、誰でも愛せる、誰もが孤独でなくなることができる、というわけではありません
どうでもいい」という想いがあるからですね
殺し屋にとって「ドキドキする」女がそうであったように
失恋女にとって口がきけない男がそうであったように
悲しいかな、人の一生は有限
それゆえに、愛する相手が誰でもいいとはならない

だから、店を営み続けなければならない心を変化させていかなければならない

「毎日 大勢とすれ違う、そのだれかと親友になるかも、だから僕はすれ違いを避けない、ケガする時もあるけど楽しければいい」

引用:映画『天使の涙』モウのモノローグ

感情を持ち込まない限り、人はずっと孤独なまま
人の暖かさを求める限り、人は永遠なるものにつながっていられる

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まとめ

人間は”永遠なるもの”のため、孤独ではいられないのでしょう
そんなことを思わせる素敵な映画でした

とくにエージェントが美しい
孤独な存在が、愛の暖かさにほだされる
最高なラストシーンを目の当たりにすることができました

・恋愛をしたい人
・孤独な人
・群像劇が好きな人
におすすめです

ここまで読んでいただき、ありがとうございました

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