
慎重な手つきでスーツをたたむ仕草からは読み取れない。おもんぱかり言葉を選ぶ姿勢からは考えられない。どれだけ想像を膨らましても、誰にも決して到達しえない、ずっと遠くのほうにある、深淵。高邁な武勇で強靭になった肉体も、物事を見透かす背徳的な社会性も超然としたアレハンドロの双眸は、そこに足を踏み入れたときにおいてのみ震えていた。はじめてその揺らめきと、粘度が異常な執念を見たとき、復讐はありえるのかもしれないと思った。自らの意思で人殺しになれる者は、命の重みを知っている。一歩、また一歩と闇を受け入れ乱していく足取りが、とても美しく見えてしまうのは、そこに“真剣さ”が滲んでいるからだろう。
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