新作映画『ザ・メニュー』の感想/紹介記事となります。
ヴォルデモート以上の狂気を期待し、映画館に足を運んだのですが、まさかまさか涙がほろり。料理をする、ただそれだけのシーンで泣けたのは、犬童一心監督作品『ジョゼと虎の魚たち』のラスト、池脇千鶴さん演じるジョゼが魚を焼く姿以来です。
この記事では、新作映画『ザ・メニュー』を観たわたしが、なぜ泣いてしまったのかを紐解いていくための文章になっていますので、あしからず。
それでは、書き綴っていきますー。
(※若干のネタバレを含みます、おおいに執筆者の主観がまじっていることをご留意ください)
あらすじ・解説
有名シェフのジュリアン・スローヴィクが極上の料理をふるまい、なかなか予約が取れないことで知られる孤島のレストランにやってきたカップルのマーゴとタイラー。目にも舌にも麗しい料理の数々にタイラーは感動しきりだったが、マーゴはふとしたことから違和感を覚え、それをきっかけに次第にレストランは不穏な空気に包まれていく。レストランのメニューのひとつひとつには想定外のサプライズが添えられていたが、その裏に隠された秘密や、ミステリアスなスローヴィクの正体が徐々に明らかになっていく。
映画.com
安定の「サーチライト・ピクチャーズ」です。私のオールタイムベスト映画『(500)日のサマー』を制作したアメリカの映画制作/配給会社であります。なので、思い入れがありまして、ロゴが出てくるたびに「おっ!」となりますね。
作品も、良質なものがおおい気がします。ビッグバジェットな映画を世に放つ、ではないですが、ハズレがない気がしています。
失われた童心
わたしが落涙した訳を考えると、ひとつの文字が浮かびます。それが…
「童心」
童心 → こどもの(ような)純真な心
とありますね。
シェフのスローヴィクを演じておりますのがレイフ・ファインズです。ハリーポッターシリーズのヴォルデモート役で有名ですね。ほかにも『007』シリーズのM役、『キングスマン ファースト・エージェント』のオーランド役を演じておられます。ベテラン英国俳優で、いろいろな映画で拝見してきました。そんな彼に童心をみる、このギャップが今作に効いている気がします。
なんのギャップかといいますと、
童心 ↔ ベテラン、です。
今作は、孤島の一流レストランを舞台にあらゆる「”肩書”をもつ大人」が食事をしにやってくる、という物語。
・料理を提供するスローヴィクたち
・料理を食する客たち
とに分けられます。
客は、料理評論家、人気俳優、セレブと、いわゆる成功をした大人たちです。ベテランシェフとベテラン(社会的)客との対峙、という構図なんです。
で、ネタバレを避けるため多くは書きませんが、とりあずおさえておきたいことが2点
・フルコースがぶっ飛んでいる
・客がプライド高くて鼻につく
アーティスティックすぎる料理に、おませな発言をしまくる客。レストランには上記しましたベテラン、もしくわベテランを気どる人物が集まっているということです。
両者に共通していることは、
”料理の芸術性”を認めていることです。
スローヴィクはじめ、カルトじみたコックたちや、ぶっ飛んだフルコース。料理評論家のうんちくや、わからずとも高額の料理はスゲーんだという客。
物語では、純粋に「食事」をする人物がいないんですね、1人を除いて。
このことに、童心とベテランの乖離がみいだせます。食事というものは、食欲を満たすための根源的な欲求。子どもであれば「旨いものはうまいんだ」「あーお腹いっぱい」となるものですが、ベテランである彼らはそれを極めて蔑ろにしたうえで、評するんですね。「おいしい」「きれい」という実感以上の評価をくだすんです。
「うまい!」をはじめとした、実感を純粋に感じることを童心とするならば、孤島のレストランはまるで、童心が失われた大人の空間です。
そして、この映画は、そんな”ベテランたち(スローヴィク側も含めて)”に問いを投げかけます。
童心はどこへいったの?と。
母親のハンバーグでめちゃくちゃ喜んでいた童心は失われてしまったのか。
わたしはこの映画を、”失われた童心”の悲哀を描いた映画だったのだと解釈しております。
料理以外でもなんでもいい。たとえば、私の場合は「映画」ですね。こうして個人ブログではありますが、映画についての文章を書いていますと、純粋に映画を楽しむことに加え、ブログ記事を書くための映画鑑賞すなわち分析や解説といったプラスアルファの作業が必要になります。鑑賞後の「楽しい」「美しい」だけの悦びでは済まないということですね。
ですが、本来映画鑑賞とは「楽しかった」だけでよいもののはず。こんな感じで、”ベテラン”になることの悲哀は、失われゆく童心を思わせます。
成長すること、社会に適応すること、それは人間の根源的な欲求にまでも影響してしまう悲しみにつながる。
しかし、この映画の感動に拍車をかけるのは、この童心を忘れぬ人物が物語に登場すること。
それが、マーゴです。
マーゴだけが、「お腹が満たされてないわ」といって、芸術性より、ちゃんと食欲を満たしたい、と言ってみせる。ここが爽快であり、落涙ポイント。なぜならマーゴに童心をみるからですね。
物語ではずっと、スローヴィクは「君はここに相応しくない」的なことを、マーゴに言っています。
そして、この発言のニュアンスが、初めと終わりとで変化していくことに気づきます。
始めは「芸術性をわからぬくせに」だったのが、終わりで「童心ある君がここにいてはいけない」になる。
童心が失われた大人の空間で、スローヴィクとマーゴが”童心”でつながる展開。そこで、マーゴを通してスローヴィクの童心を垣間みるんですね。このギャップがちょーいい。リード文のとこで書きました、料理シーンの感動。それはスローヴィクがマーゴの注文で、チーズバーガーをつくるシーン。カルト開祖スローヴィクの微笑みに落涙であります。大変感動であります。そのシーンを見るためだけにこの映画があった、といったら言い過ぎですが、それだけ美しい。
この微笑みを肝に銘じ、わたしもこれから映画鑑賞を楽しみたいと思います。
まとめ
この記事では、俳優や映画配給会社についての解説を記しましたが、こうした情報は二の次。兎にも角にも書くべきは「感動できるから、観てください」であって、それで充分なんだ、ということを思い出させてくれる映画でした。
日々の生活で、何かに追われて童心を失いそうになることもあるかと思います。ただ、やはり大切なのは童心なのでしょう。
なぜって?「楽しい」から。
・生きがいを感じていない人
・夢がある人
・大人の世界にもまれている人
におすすめです。
ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。
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