「できた!」と心の底から喜べたのは、
「楽しそう」と言われた最後の日は、
遠い昔。まだ、社会のあてこすりを
知る前の純粋無垢な子ども時代だ。
ひとつのことにまっすぐに、
愛のまなざしを注ぐことができ、
心に体温が通い、白い呼吸が笑顔を包む。
その温もりに身をゆだねる日々に終わりが
あるとは知らずにいれたあの頃だ。
陽光で煌めく氷上に、ひとりの人がいる。
踊り、舞い、その世界は自分のために用意
されていると宣言するが如く、全身全霊で
存在し続ける。そして、その営みを見つめる
人がいる。同じ世界を共有する(共有したい
と望む)他者がいる。真に成したいことへの
情熱と集中。それを肯定してくれる空間が
あることの、なんと幸せなことか。
映画『ぼくのお日さま』の美しさは、
恋や郷愁といった誰もが抱える“想い”の
奔流を、白く眩しい雪の光のなかに、
留めることに成功した点にあるのでは
ないだろうか。
恋とダンス
恋とダンス。この2つは
うまくシンクロするように思う。
たとえば『小さな恋のメロディ』では、
可憐な少女メロディのダンスに見惚れる
少年ダニエルが描かれる。
『Shall we ダンス?』では、中年男性の
杉山が邪な理由から社交ダンスをはじめ、
次第にダンス自体に夢中になっていくさま
が描かれる。
ダンスの身体表現が、恋の想いを伝える。
それは、冷たい言葉の羅列で想いを伝える
よりも、より一層の効果を発揮する。
とりわけ、吃音を抱えるタクヤにとって、
さくらに想いを伝えるための絶好の手段だ。
その想いの奔流がアイスダンスに表れる
のだから、美しくないわけがない。
腰に手を添え、アイスリンクを削る。
光と陰に晒されながら滑走する2人の姿は、
不感症の日々に埋没することを許した私の
心に、陽だまりの心地よさを思い出させる
美しい詩のようだった。
コメント