人の真心をうつしだす映画
今回はジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督作品『イゴールの約束』と『ロゼッタ』の感想記事となります。お二人は兄弟であり、ベルギーの映画監督です。カンヌ国際映画祭をはじめ、さまざまな受賞歴をもつ有名監督さん。
私がはじめてみた作品は『息子のまなざし』でして、まず感じたのは、人間のうごきとか視線とかを生々しくねっと~りと撮っているなぁと。丹念に人物をとらえることで、人間の重み、心の重みみたいなものが描かれているのかなと思いました。だから人物が発する一言一言にみょうな説得感があるんですよね。
それとカメラワークが激しすぎるので(『ロゼッタ』もしかり)、かなり酔います。(笑)
カメラのブレ = 心情のはげしさ
の演出…とも考察もできますね。
ダルデンヌ兄弟の作品で特徴的だなって思うことが下記。
・偶発的な物語展開
映画に限らず小説やアニメなどは物語である以上、展開に道筋が必要です。ヒーローが悪者を倒すという展開、紆余曲折あって男女が結ばれる展開など。どこか馴染みのある予定調和な内容は、物語にふれてきた回数が多い人ほど感じるわけです。そこにはつくり手側の‘‘作為性‘‘があります。一方、ダルデンヌ兄弟の作品には、それがほとんど感じられない。なにがどうなっていくかの想像がまるでできない、‘‘偶発的‘‘な物語なんですよね。そこが物語をチョー本物にし、人物をリアルに描けていて、魅力につながっていると思うんです。
・ラストシーンのまくり
ダルデンヌ兄弟の作品で一番あたらしい「その手に触れるまで」がもろにそうだったんですが、ラストシーンがイカしてるんですよね。積み上げられてきた人物の心情がラストシーンに良くも悪くも覆る。そして無音のエンドクレジット…。「どうぞ、余韻にひたってください」って言われて「もちろん、そうさせていただきます」ってなります。
そんな感じな映画をつくる監督だと思っております。
では、『イゴールの約束』から紹介していきます。
(※ネタバレ含みます)
(あわせて読みたい記事→【映画監督】特集 映画監督で選ぶおすすめ作品5選【おすすめ】)
『イゴールの約束』あらすじ
外国人違法労働者の売買をする父を助けながら、15歳のイゴールは自動車修理工場で働いていた。そんなある日、労働者の一人アミドゥが事故を起こす。父は警察に不法労働が知られるのを恐れて、アミドゥを病院へ連れて行かなかった。そのため、アミドゥはイゴールに妻と子供のことを頼んで亡くなってしまった。父はイゴールに手伝わせて死体を埋め、アミドゥの妻アシタに嘘をついたが……。
引用:allcinema イゴールの約束 解説
イゴールについて
繰り返される日常に黙過できない死が訪れた。指示され動く日常に意志が芽生える。 人とのつながりは血縁だけではない。絆はほだしとも読む。支配は自由意志を妨げ、真実を話すための真心を失わせる。 だから、決断が必要だ。なにかを断つと決めること。イゴールのそれは父との関係性だった。 血でつながるのではなく、つながろうとする孤独な意志によってつながる。人はまず、人とつながるために、孤独になる必要があって、自分を確立することが求められる。別れは必然なんだ。
わるい仕事をする父を手伝うイゴール。15歳でこの境遇はつらいですね。
言わずもがな‘‘父親‘‘は子どもにとって特別な存在。ものごころつく前から関わり、育ててくれた事実がある。でも、もしその父親が悪い人だったとしたら、その悪に染まることは宿命なのか。
イゴールの心情、行動の変化が、この映画の見どころかなと思います。
最初はあたりまえのように手伝うイゴールですが、”死”という出来事を目の当たりにし、そこである”約束”を交わし、ある”意思”が芽生えるんですね。その意思は父親と対立するものだった。さぁ、どうする?っていうながれ。
その出来事っていうのが少々ややこしいので割愛しますが、とにかく、父と対立した”意思”をイゴールはどう運ぶのか。それを観客は見守ることになります。
この映画で描かれているのは自由意志についてだと思います(しばしばでてくる「車」はメタファー)。たとえ血のつながった父親であろうと、個人の自由の境界線は越境しえない
その正しさを力強く示し、自律のための決断を描いています。
決断 = 断つと決めること
自律のためには、孤独の経由は免れないのだなと。そして、孤独になってはじめて愛のなんたるやを知っていく。
愛が血のつながりを凌駕する瞬間をこの映画でみることができます。
なにか「決断したい」と思っている人にオススメしたい作品です。
『ロゼッタ』あらすじ
キャンプ場のトレーラーハウスで酒浸りの母と暮らす少女ロゼッタ。ある日、彼女は理由もなく職場をクビになってしまう。ロゼッタは厳しい社会の現実にぶつかりながらも必死で新しい仕事を探しつづけるのだが……。
引用:allcinema ロゼッタ 解説
ロゼッタについて
極限な生活。不憫な生活のなかにある激しい感情。まともな生活でない以上は、まともに人を信頼することもできないだろう。貧しさは我欲うみ、それ故の決定的な裏切りが人間関係を破綻させている。信頼をかなぐり捨ててでも、自分を守るしかなかった。 それでも、たとえ他人であろうとも、真に苦しむ人を救う際に、真心はあらわれる。悲しみは愛しみだ。
極限な生活ななかロゼッタは母を慕います。イゴールの約束では父からの決別でした。今作では逆にロゼッタが母から疎ましく思われており、ロゼッタが母に愛されるために尽くすという構図。
この母親がひどいんですよ。働きもせず、男と遊び、ロゼッタからお金をせびる。
そんな母をもちながらロゼッタは、雇用もままならず、不安定な生活を続けているんですね。ロゼッタは自分のことと母のことで一杯いっぱいな状況。
ずっとその過酷な生活をおうのですが、物語の中盤あたりで、ロゼッタがある”裏切り”をします。裏切られる相手がロゼッタと仲良くなりかけていた青年で、恋愛映画になってもおかしくない展開だったのですが、さすがダルデンヌ監督。ここでも現実を徹底的に突きつけてきます。
ここで注目したいのは”裏切らざるを得なかったロゼッタの心情”です。親にろくに愛されないロゼッタは、愛し方も、愛され方もわからなかった。生きていくのがやっとな状態で、人を頼る余裕がなかった。
そして、最後ですね。
さすがダルデンヌ兄弟、極限状態のロゼッタに救いの手を差し伸べます(前述しました「ラストシーンのまくり」)。
人間の真心は極限状態にある人を、真に苦しむ人を救う際にあらわれる。いやぁ、ほんとうにしびれますよ。
偽善に疲れた人にオススメしたい作品です。
まとめ
イゴール→父からの自律
ロゼッタ→母への愛
と対比的にもみれますので、二作セットでみると面白いかもしれません。
ダルデンヌ兄弟の作品は極めてリアリスティックです。そのため、展開として盛り上がりに欠けてしまうので、観る人を選ぶ映画かとは思います。
ですが、この手の映画が好みな方は、琴線にふれること間違いなしです。ぜひ、チェックしてみてください!
ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。
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