映画『千年女優』十四日目の月|今敏監督作品

(C)2001 千年女優製作委員会

現在と過去、銀幕の中、そして私の世界。どれだけ時間が過ぎようと、どんなに場面が変わろうと、幾重にも折り重なる夜の皺で、おなじ月をみていた。終わりを予感させることのない十四日目の月。あなたと約束した、たったひとつの月。

闇がとろける霞の向こう、にじり寄る明かりのもとで、ある女と男が出会う。銃撃で、頬が朱に染まる。約束で、雪原が夢に満ちる。月が、あなたを永遠にする。あらゆるものが失われてしまうけれど、おなじ月が、心の底深くを、ずっと、やさしく照らす。だから、これでいいと思える、どこまでも行ける気がする。街を抜け、山を越え、天を翔け、宙を舞う。あなたが響かせる沈黙が、あらゆる出来事を物語にしてくれるのだ。

一度きりの出会いが、永遠の物語を紡ぐことがある。それは、日常に溶け合うことを望まず、現実の干渉を拒み、願望や期待に象られ、そして、孤独が運命づけられたわき目を振らないあくなき人生と結びつく。月光の針で縫い止められては、こころよく白い糸を手繰るのだ。息をのむ気配と、セピア色の心象が符合し、まどろみにあなたの姿が立ち昇る。官能が葬られ、情熱が凍結した黙然とする絵画の中の肖像に、あなたの言葉を語らせる。接触が叶うことのない人物との蜜月のとき、人は物語に愛を託すのだろう。どこか遠い星の世界まで、果てしなく、独り旅をつづけながら。

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