【映画&ドラマ】『ストレンヂア 無皇刃譚』(ほか2作)感情の奔流

(C) BONES/ストレンヂア製作委員会

執筆者がおすすめする映画(×2)とドラマ(×1)についてをしたためた記事となります。

理性を働かせることのできる人間は、感情にフタをする術を身につけているものです。「割り切る」という言葉があるように、私たちはある程度自分の感情を無下にした立ち居振る舞いを社会から要請されては、その期待に応えようとする。そうやってなんとか生きている。

さながらロボットのような人生。

私はよくそんなことを思ってしまいます。たいへん面倒くさい。

だから、この違和感を払拭する、すなわち”感情をぶちまる”という言動にも価値があると思うんですね。むしろ、そこにこそ人間らしさがうかがえるものだとも考えるんです。

以前、当ブログで紹介した映画『BECKY/ベッキー』では、その主題が描かれており、感動させられました。
(あわせて読みたい記事→『BECKY/ベッキー』理性をしのぐ本能の美しさ

今回もそれと似た感動を抱けるような作品をご紹介します。

「感情の奔流」と題しまして、人間のほとばしる情緒に魅力のある作品3選です。

(※おおいに執筆者の主観がまじっていることをご留意ください)
(音声はこちら→『ストレンヂア 無皇刃譚』(ほか2作)感情の奔流

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映画『ストレンヂア 無皇刃譚』

©BONES/ストレンヂア製作委員会

あらすじ・解説

戦乱の世を舞台に、ひとりの少年を巡って繰り広げられる男たちの戦いをハイクオリティ映像で描いた時代劇アニメーション。下克上や野盗が横行する戦乱の時代。禅僧・祥庵の庇護の下、仔太郎という名の少年が中国大陸からやって来た。同じ頃、仔太郎の身体に隠されたある秘密を狙う明国の集団も日本へとたどり着く。刺客に襲われたところを謎の剣士“名無し”に救われた仔太郎は、彼と行動を共にすることになるが……。

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“過去”を断ち切る感情

この作品の見どころは、圧倒的なソードアクションです。

アニメをそこまで観るわけではない執筆者も、今作の作画が凄まじいということはわかります。

なんと言ってもラストの大団円バトルシークエンス。そこまでのアクションも見ごたえ満載ですが、最後のに比べると、抑制されたアクションだったということに気づきます。

で、この”抑制”が作品の伝える主題をより際立たせているんですね。
というのも、物語は、主人公の”名無し”と仔太郎(その愛犬)が行動を共にする話でして…
名無し → 過去に何やらある
仔太郎 → 特別な存在で、
      ある組織に追われている
という設定。

序盤から中盤にかけては、”過去”やら”特別”の謎は伏せられたまま2人の交流がえがかれるため、要所要所にアクションシーンはあるものの比較的穏やかなんですね。しかし、後半でのバトルシーンでは、抑制されていた物語のトーンと謎に包まれていた人物の”過去”や”特別”が紐解かれて、ついには”感情”が発露する、という展開になるんです。

人物のほとばしる”感情”が、剣戟アクション大団円に重ねられて描かれる、それがカッコイイんです。

”過去”に傷を抱える名無しが、そのトラウマからか、刀を持ち歩きながらも、鞘と鍔がはなれないように紐でかたく縛り付けて、刀を抜けないようにしている。”過去”に囚われ、”過去”を捨てられないでいる男だということ。

大団円のシークエンスでは、そんな彼が刀を強く握りしめ、ガツンと自分の目の前に刀を立てるシーンがあります。執筆者はここが大好きです。そして、ついに、刀を抜く瞬間、アクションシーンの始まりであると同時に、「”過去”を断ち切る」という物語のテーマが名無しの感情を爆発させながら描かれます。

名無し以外にもたくさんの人物が自身の”感情”を胸に武器を振り回します。
・最強を冠するため、楽しむため
・地位を高めるため
・長寿のため
等々、あらゆる人物の”感情”の原因が相対的に描かれます。

そして、名無しのそれは
・仔太郎のため
・”過去”との決別
にあるんですね。

この”感情”の原因が、独りよがりでなく、仔太郎への想いに着地させている点も美しいんですよね。

細かいことは抜きにしてもアクションで十分楽しめる作品ですので、ぜひ!

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映画『茄子 スーツケースの渡り鳥』

©2007 黒田硫黄・講談社/「茄子 スーツケースの渡り鳥」製作委員会

あらすじ・解説

黒田硫黄のコミック「茄子」収録の短編をアニメ映画化した「茄子 アンダルシアの夏」の続編。チーム・パオパオビールに所属する自転車ロードレース選手ぺぺ。彼のチームメイトであるチョッチは、同郷の先輩である選手マルコの自殺にショックを受け、レーサーとしての人生に疑問を抱きはじめる。そんな中、チーム・パオパオビールはジャパンカップに参加するため日本へと向かう。スタジオジブリ作品で作画監督を手がけてきた高坂希太郎が前作に続き監督を務める。

映画.com

“人生”を勝ち取る感情

前作『茄子 アンダルシアの夏』の続編になります。
(あわせて読みたい記事→『茄子 アンダルシアの夏』意思とは過去との対峙

前作では主人公ペペがロードレースを通して自身の過去と対峙する姿がエモーショナルに描かれたドラマ性も高い素敵な作品でした。今作でもペペはでてきますが、わりと脇役的な感じでして、チョッチという人物にドラマな要素が担わされた物語になっております。

同郷の偉大なロードレーサー・マルコの自殺が頭をもたげ自身のプロとしてのキャリアに陰りが生じ始めているチョッチ。そんな彼がペペを含めた4人のチームでジャパンカップに参戦します。

相変わらずロードレースという知略のチーム戦は迫力満点ですし、アニメ作品ならではのコミカライズされた感情表現の絵なんかも面白いです。

ただ、このブログの記事を何回か読んでくださっている方ならお気づきかもですが、やはり私が注目したいのはドラマ性。なので、チョッチの”感情”を見どころとして本作をおすすめしたい。

みなさんは、”苦しみ”を良いものだと思ったことはありませんでしょうか。私はあります。…というのは人間の”幸福”に必要な要素であると感じるからです。

たとえば
・名無しの台詞に「痛みがあるほうが生きている気がする」
・きついトレーニングのすえ、大会で優勝
・当ブログ執筆者の記事制作後の充足感

ある種のマゾヒズムが生きている実感や充足感に転じ、幸福と思える。みたいな感じですね。

チーム・パオパオビールの日本へのフライト中での会話では、”人生の幸福”についての示唆がうかがえます。端的にいえば、「楽な人生」と「苦しい人生」どっちがいいか。チョッチたちの文脈に沿って換言すれば「引退後の生活」と「プロロードレーサーの生活」となるでしょう。

そして、チョッチはこの2つの人生の岐路に立たされている状況なんですね。
原因は同郷で交流もあった偉大なロードレーサー・マルコの自殺。彼の”死”は「引退後の生活」を思わせ、”チョッチの幸福”を考えさせます。

だがしかし。
ペダルを踏みしめるチョッチ。ペペの「そうこなくっちゃ」が響きます。

引退という岐路にチョッチが向き合い葛藤し、ロードレースという”苦しみ”の連続のなかでも、自身の”感情”を捨てることなく戦う姿を描きます。

”感情”の伴う人生にこそ、美しさが宿る。

執筆者もその姿を観て「”人生”を勝ち取りたい」と思えました。

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ドラマ『ブラック・ミラー/season3「ランク社会」』

©BLACK MIRROR DRAMA LTD 2016

あらすじ

SNSのスコアが生活の質や交友関係に影響する社会を舞台にしたイギリスのSF物語。
主人公レイシーは自分のスコアを上げるため、身の振る舞いに努力を惜しまなかった。そんな彼女の日常にかつての親友ナオミから結婚披露宴で付添人となって欲しいと依頼される。嬉々として快諾するも、披露宴現地までの道中にさまざまなトラブルに巻き込まれてゆき……。

執筆者記入

“社会”に歯向かう感情

Netflixオリジナルドラマの『ブラック・ミラー』。イギリス版「世にも奇妙な物語」×SF、みたいな作品でして、近未来の風刺的に描いたさまざまな物語をオムニバス形式で楽しむことができます。

そのなかでも執筆者おすすめのお話が、season3/「ランク社会」です。
当ブログでも以前に取り上げていますので、よかったら覗いてみてください
(あわせて読みたい記事→『ランク社会』ブラックミラーs3

原題が「Nosedive」。
“急降下”を意味しますね。
そのタイトル通り、物語中では主人公のレイシーが急降下します。しかし、その果てにはたいへん美しい光景を目にすることが、少なくとも執筆者はできました。

SNSのスコアが生活の質に直結するという近未来の社会を舞台にレイシーの”急降下”の物語を観ます。街の住民はスコアをあげるため、☆を送り合うという奇妙な言動をしています。近未来の社会を描く『ブラック・ミラー』の物語の数々、そのなかでも「ランク社会」は、あながち現実でも起こり得そうな世界観だなと思うのが個人的感想。ネット上でみるものの多くが煌びやかな”虚構”。それに評価をくだすシステムも今となっては一般的で、現代の日常にも馴染んでいる感がありますから。

そんな現代の延長線上にある世界観を誇張して描かれたのが今作「ランク社会」。

”ランク社会”に対し、レイシーの”感情”が炸裂するさまが白眉でありまして、美しい。

同調圧力に嫌気がさすことはありませんでしょうか。自分の本音を隠して言いたくないことを言う。自分の本心に蓋をしてやりたくないことをやる。上辺な付き合いの連続が上辺の人生をつくりあげていく。それだと、あまりに味気ないと私は思うんですね。

無難に生きていれば、上述しました「楽な人生」を送れるでしょう。しかし、それは衝突をおそれ、あらゆる物事にエゴもなく妥協をし続ける人生だ。チョッチが選んだであろう人生は、”苦しみ”の連続だった。今作でいうのであれば、「f**k you」と叫び、エゴを捨てることなく、自分の人生を生きた、といえるような「苦しい人生」だ。

社会に歯向かうことになろうと、

ロマンチックな人生をおくるため、”感情”を手放してはならない。

久保帯人(著) 『BLEACH』59巻 集英社
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まとめ

“感情”が描かれた素敵な作品を3つ紹介しました。

人間の記憶には、”感情”がおおいに関係していることが分かっているようです。

衝撃的な経験のような”感情”が大きくが揺さぶられた物事をより記憶しているように、”感情”が担う根源的な生物としての営みは、人生を彩るために欠かせない機能であって、社会に埋没するために無下にするべきものでもないと思うんです。

もっと、楽しんでいいと思うんです。

狂気の沙汰な人生にも、ある部分においては肯定しうる人間としての美しさが秘められているのだと。

ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。

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