映画『リリイ・シュシュのすべて』『Love Letter』 光と陰の相克に|岩井俊二監督

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やさしい風が綿のカーテンを膨らませる静かな図書室。ちらちらと反射する塵は、あらゆる書物をまえに優雅に舞う。音はなく、澄みきって。同姓同名、藤井樹二人の言葉だけが、琥珀色の空間を満たしている。もしくは夜、校舎裏の駐輪場の片隅。赤い丸の数がまるで違う回答用紙を自転車のライトにつき合わせる。あたたかく重なる同姓同名。できる限りあなたと一緒にいたい。そんな切実さが愛おしい中学時代。

はたまたそれは、沈黙が形づくる監獄。みぞおちに食い込む爪先の感覚。顔をつき合わせて嘲る同級の表情。教室も、音楽室も、体育館も、職員室も、廊下も、校庭も、帰り道の田園も、すべてが灰色。恐喝と凌辱と……、犯罪がはためく長い時間。

岩井俊二監督の映画『Love Letter』と『リリイ・シュシュのすべて』は、どちらも中学生を切り取った作品ではありますが、受ける印象の性質はきっと対照的です。一方は「藤井樹ストレートフラッシュ」とユニークな恋の告白が語られて、一方は「あんたが私を守ってよ」と沈痛な想いが吐露される。恋人や友人との大切な思い出ができるかもしれないが、表沙汰にはされずに、なんだかんだ過ぎ去ってしまった不条理ないじめの、忘れがたい鈍い記憶を残すことだってありえてしまう。中学時代は、光と陰を孕んでいることに気がつかされます。『リリイ・シュシュのすべて』の着想は、監督が『Love Letter』の撮影後、帰りの飛行機の中で読んだ男子学生の手記だったと言います。自殺に至るまでの背景を伺わせる心の記録に衝撃を受けたと。それがきっかけとなって、ロマンスだけでは成立しない、混沌とした中学生の内面をあざやかに映し出す作品が生まれたのです。

美麗なロマンスと、残酷ないじめを描いた映画だと思われるかもしれません。ですが、岩井俊二監督の魔法のように懐かしい映像は、それらモチーフに沿うような、はたまた反発する形の美しい世界と融合しており、さながら岩井俊二ワールドと言いたくなるほど稀有な作家性が、映画作品の品格を下支えしています。光と陰、愛と死の相克に「美」が潜んでいることを謳う映画として、二作品を鑑賞することをおすすめします。

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