【新作映画】『線は、僕を描く』心の中の花【小泉徳宏監督作品】

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

小泉徳宏監督作品の映画『線は、僕を描く』の感想/考察記事となります。

『ちはやふる』シリーズでお馴染みの小泉徳宏監督。青春映画(の類を多く観ているわけではないが)を撮らせたら右に出る者はいないのではないかと言いたくなるほどに、青春を描くのがうまい。

駆け抜けるようなアップテンポな音楽とキレのある編集で若者の成長シークエンスが描かれた『ちはやふる』の感動が、今作『線は、僕を描く』にも継承されています。のみならず、俳優・清原果耶さんの出演も見逃せません。『ちはやふる』の名シーン(個人的)「”しの”を取るのは私や!」の凛々しさの再来。何かに打ち込むことの美しさをみます。

この記事では、今作が表象していたものが何だったのかを考察し、物語の魅力をお伝えしたいと思います。

(※おおいに執筆者の主観がまじっていることをご留意ください)
(音声はこちら→『線は、僕を描く』心の中の花

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あらすじ

大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で水墨画と運命的な出会いを果たす。白と黒のみで表現された水墨画は霜介の前に色鮮やかに広がり、家族を不慮の事故で失ったことで深い喪失感を抱えていた彼の世界は一変する。巨匠・篠田湖山に声を掛けられて水墨画を学ぶことになった霜介は、初めての世界に戸惑いながらも魅了されていく。

映画.com

『ちはやふる』は高校生の競技かるた部を描いていましたが、今作の主人公は大学生であり、取り組むこととなるのは学外での水墨画。そのため『ちはやふる』のバトルもののアツさとは打って変わって、芸術をとおして”自分と向き合う”といった、極めて内省的で「静」を基調とした物語となっております。

”自分と向き合う” = ”過去と向き合う”とされる部分は、『ちはやふる』の主題であった「仲間」要素からくるスポ根とは様相を以にした、ちょっと大人びた物語だったかなと思います。

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「過程」にこそある美しさ

この映画でポイントだと思うのが、「過程」です。

白い紙に墨汁を湿らせた筆をはしらせて描く水墨画。劇中では、その様子が疾走感のある音楽とともに描写されるのですが、この筆を走らせる様子を劇的に描くことが、”自分自身の人生の「過程」を描く”ということと重ねて表現されているんですね。

「過程」と対置されるのが「結果」です。
物語の人物の発言では…
湖峰(こほう)「何かに成るんじゃなくて、何かに変わっていくものなのかもしれないね」
湖山(こざん)「形はどうだっていい」「形にこだわっちゃいけないよ」
などなど、「結果」にこだわることを戒める発言が散見されます。

映画全体をとおして、重要なのは 過程 > 結果 であることが度々表現されているんですね。その「過程」が、水墨画という芸術を実践する人物を描くことで、ダイナミックに表現されていきます。

また、「過程」と「結果」をほかの概念のつなげて考えますと
「過程」= 現在未来
「結果」= 過去
になるのではないでしょうか。

以上のことから、この映画で表象されていることがなんだったかを記しますと

過去と向き合い、未来へ向けた人生を描く、ということだと考えます。

千瑛(ちあき)のセリフにこうあります。
「水墨は筆のなかにどんな色をつくるか、それをいかにコントロールするかが勝負なの」
「目の前の花じゃない、水墨画で描くのは、心の中の花」

このセリフにある”色”や”花”は、「結果」から生じた自分の”想い”をあらわしていて、自分の身に降りかかったあらゆる”出来事”という「結果」。それらと向き合い、受け入れたうえで、いま、自分自身の心が抱く”想い”の「過程」を存分に描くということ、生きるということ。

主人公・青山霜介の身に降りかかった「結果(=出来事)」は、乗り越えるのが大変難しく、辛いものだったでしょう。しかし、心の「過程」を描き出す水墨画という芸術は、そんな霜介に感動をもたらしました。この感動の実感が、自然という”無常”がもたらす悲しみに遭いながらも、力強く生き続けることのできる人間の心を想わせます。人生の本質、すなわち自分の過去との対峙からはじまるあらゆる「過程」の連続を水墨画の線として表現するということ。

その美しさは、諸行無常なこの世界で、それでも人間が生きていくということを体現しているのです。

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まとめ

『ちはやふる』はチームプレーに重きがあったために、登場人物が多かったのですが、『線は、僕を描く』では、自分の内面深掘りものになっておりますので、人物も少なく、物語のスケールはミニマムに感じますね。しかし、物語の内容は負けず劣らずの深さがありますので、『ちはやふる』が好きだった方には安心しておすすめのできる映画です。

生きている「過程」にこそある美しさを感じることのできる素敵な作品です。

・何か打ち込んでいるものがある人
・何かに打ち込みたいと思っている人
・生きる勇気を感じたい人
におすすめです。

ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。

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