【映画】『ぼくのお日さま』陽だまりの美しい詩【奥山大史監督作品】

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS

「できた!」と心の底から喜べたのは、
「楽しそう」と言われた最後の日は、
遠い昔。まだ、社会のあてこすりを
知る前の純粋無垢な子ども時代だ。

ひとつのことにまっすぐに、
愛のまなざしを注ぐことができ、
心に体温が通い、白い呼吸が笑顔を包む。
その温もりに身をゆだねる日々に終わりが
あるとは知らずにいれたあの頃だ。

陽光で煌めく氷上に、ひとりの人がいる。
踊り、舞い、その世界は自分のために用意
されていると宣言するが如く、全身全霊で
存在し続ける。そして、その営みを見つめる
人がいる。同じ世界を共有する(共有したい
と望む)他者がいる。真に成したいことへの
情熱と集中。それを肯定してくれる空間が
あることの、なんと幸せなことか。

映画『ぼくのお日さま』の美しさは、
恋や郷愁といった誰もが抱える“想い”の
奔流を、白く眩しい雪の光のなかに、
留めることに成功した点にあるのでは
ないだろうか。

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恋とダンス

恋とダンス。この2つは
うまくシンクロするように思う。

たとえば『小さな恋のメロディ』では、
可憐な少女メロディのダンスに見惚れる
少年ダニエルが描かれる。
『Shall we ダンス?』では、中年男性の
杉山が邪な理由から社交ダンスをはじめ、
次第にダンス自体に夢中になっていくさま
が描かれる。

ダンスの身体表現が、恋の想いを伝える。
それは、冷たい言葉の羅列で想いを伝える
よりも、より一層の効果を発揮する。
とりわけ、吃音を抱えるタクヤにとって、
さくらに想いを伝えるための絶好の手段だ。

その想いの奔流がアイスダンスに表れる
のだから、美しくないわけがない。
腰に手を添え、アイスリンクを削る。
光と陰に晒されながら滑走する2人の姿は、
不感症の日々に埋没することを許した私の
心に、陽だまりの心地よさを思い出させる
美しい詩のようだった。

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