
構想からおよそ5年の月日をかけてつくられた映画『我々は宇宙人』。門脇康平監督の長編アニメーションデビュー作で、2022年に設立されたばかりのNOTHING NEWが企画・製作を手がけています。
手放せずにいる瞬間、忘れられない記憶の隅を見つめ続ける、そんな映画体験でした。
あらすじ紹介のあと、印象深いシーンや科白をあげながら本作の魅力を綴っていきます。
あらすじ
「ピーピロリロリロ。地球での極秘任務完了。宇宙へ帰還します!」平成のある田舎町。内気で“普通”であることに悩む少年・翼は、小学三年生の春、クラスの人気者で“特別”な存在の暁太郎と出会い、親友になる。二人だけの遊び、意味のない会話、夕暮れの帰り道-世界は確かに、彼らのものだった。しかしある日を境に、暁太郎はクラスの中で浮いた存在となり、噂や視線が彼を囲んでいく。やがて起こる、取り返しのつかない出来事が……
Filmarks
監督が「離脱を防ぐために、物語を面白くするのに苦慮した」との旨をインタビューで話していましたが、わたしからすれば、物語そのものを度外視してもずっとみていられる瞬間の連続でした。
そんなわたしの体験、作品の美しさが伝わることを願って、以下より作品についての文章です。
作品について
絵のタッチ
アニメーションはひとつひとつの絵の連なりですが、本作のそれに妙な“間”を感じたのはわたしだけでしょうか。間が遅延を発生させ、本来であればぬるぬると動いて見えるはずの映像が、ひとつひとつに分離した絵画となり、細部に至るまで丹念な凝視を要求される。人生で体験した事象、切り取られたその瞬間を、わたしたち観者の目に残し続け、身に覚えのある心の傷を、再び克明にしようと迫りくる、そのような映画体験でした。
新海誠監督作品の『雲の向こう、約束の場所』や『秒速5センチメートル』などでみた大変リアルな街並み、イメージや記憶、理想がないまぜとなった背景美術の巧妙さは論をまたないところ。ただ、『君の名は』以降の作品で気になるようになったのが、人物とその背景美術とのテイストがかみ合っておらず、写実的に描かれた街に馴染んでいない人物が浮いて存在しているようにみえてしまう点です。一方、本作はその逆で、街と人物の絵のテイストにまるで差がありません。わたしたちが想起して浮かびあげるイメージのほとんどが、人物と背景のセットであることを顧みれば、本作の絵全体がひとつの統一した世界でなければならないことは必然で、先述した絵画をみる心地は、このことがひとつの成立要件だったようにも思います。
アニメーションが止まってみえる。イチョウの葉を拾う暁太郎は沈黙している。その瞬間に、目を凝らしたい。
科白と存在
人物の科白に惹きつけられるものがありました。特に小夏。彼女の科白、存在自体が、この作品にあってくれて本当によかったと思います。
「あ、燕が低く飛んでる」
男子トイレの奥のほうの窓から顔を外に出した翼が、同じように女子トイレで外に目をやる小夏の存在に気づく場面で、小夏が呟く科白です。出来事を口に出してみる。小夏が自分の存在を翼に気づいてほしいと意図して発したものなのか、それともただ言葉にしたかっただけなのかはわかりません。ただ、たしかにその科白は二人の間で作用し、記憶のひとつと成り得る光景を残していました。
「止めて見てみたい」
手の甲にとどまるゼリーのような水を小夏が見つめている場面で、彼女が暁太郎に言った科白です。綺麗だと思ったから、その瞬間を少しでも引き延ばしたいと願うように、真剣に呟いているように思います。「綺麗なのは君のほうさ」なんて科白を、暁太郎は口にできませんでした。
作家・小川洋子氏の小説でよく登場する、世界の片隅で息をひそめて生きる人物と似たような存在として小夏をみていましたし、科白を思い返します。物語の渦中で大騒動を巻き起こす存在ではないけれど、それでもたしかに存在していたと実感させる呟きや、まなざしや、時間を残す人がいる。人生でわたしたちは多くの人と出会ってきたわけですが、理由はわからないが忘れないでいるそのような人が、記憶のなかで一等の光を放つことは少なくないと思うのです。
瞬間の輝き
映画『我々は宇宙人』に、瞬間の輝きをみました。ブランコから臨む校舎の全景、帰り道の白い月、静止を試みる無邪気な素手、自供を迫る母の形相、好きな子が不意にみせた仕草。それらの瞬間瞬間に目を凝らすための時間を与えてくれる作品です。だから、物語の本筋に触れずとも、テーマの本質を考えずとも、たまに光って、たまに暗くなる記憶の瞬きに、ただただ美を感じることができました。
おわりに
わたしにはとって大切な映画作品となりました。これからも何度も何度も鑑賞することになると断言できます。
本作についてnoteでも書いています。
ご興味があれば、ぜひご覧ください。
ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。

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