映画『サンキュー、チャック』神秘的な一瞬|マイク・フラナガン監督

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スティーブン・キング原作、マイク・フラナガン監督/脚本の映画『サンキュー、チャック』鑑賞してまいりました。『IT』シリーズ、『ザ・ホーンティング』シリーズが大好きな筆者。たいへん楽しみにしていた作品です。結果、大傑作でした!!今作は十八番のホラー味はまぶされている程度で、万人に勧められるドラマとなっております。とはいえ”幻想”で物語を駆動させる、あるいは”幻想”そのものを物語の地盤とさせるという作家性は健在。さらに、哲学的なメッセージが盛り込まれておりますので、鑑賞前と後とで世界の景色が少し変わって感じる、あの高揚感もありました。

キングの作品に影響を受けてきたと語るフラナガン。フラナガンの作品に太鼓判を押すキング。ふたりの名を冠した映画、ドラマの制作が予定されており、今後も活躍が見逃せません。

散文詩と感想をしたためてまいります。

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神秘的な一瞬

世界の終わり。望ましくない事態である一方で、言葉には、どこかが静けさに包まれるような、なにかが鎮まりゆくような、潔い響きがある。天敵に追い詰められた鹿が、逃げることを諦めて、ゆっくりと膝から大地に臥していく。そのような、みずから運命を受け入れたものの諦念がもたらす表情と所作には、神秘的な趣が内包されていると、折に触れて感じる。死の予感が呼び覚ます、生の時間。尊い記憶の数々に、世界が構築されていたということを、その世界の崩壊をもって気づかされるからだろうか。

星が消えた。あちらのほうでも消えた。ずっと、輝いていたのに。こんどは、わたしのいる星かもしれない。あの人の一瞬の微笑みかもしれない。消えないでほしい。

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作品について

三章仕立てで、三章、二章、一章の順番で進んでいきます。トム・ヒドルストンのダンスに生の輝きをみる二章も圧巻。映画『ソムニア -悪夢の少年-』から再キャスティングのジェイコブ・トレンブレイが嬉しい一章において登場する人物の台詞も素敵。ただ、個人的に三章が好みであったことを記しておきたいです。崩壊が進む世界。人口が減少し、社会機能が失われつつあって、すべてが息をひそめている雰囲気に、美をみました。とりわけ印象に残ったシーンを三つとりあげます。

学校での面談

学校の教師と生徒の父親が面談するシーン。最後のひとり。世界の終わりが近づく時勢で、学校生活や成績についての話が続くはずもなく、話題は家族のもとを去った妻(母親)に対する父親の愚痴へと転じます。過去に一ヶ月付き合っていた男と一緒にいることを選んだ妻の気持ちに理解を示しながらも、「情けはないのか」と、ぬぐい切れない妻への思慕がこぼれます。教師の微笑につられて、神妙な面持ちから一転、にこやかになる父親。己の不憫さに却って笑ってしまうという些細なシーンです。ここに生の輝きを垣間みました。世界の終わりであろうと感情は不断に波打ち、世界の終わりであるからこそ大切な人との時間が色濃くなると。

父親役はデヴィッド・ダストマルチャン。昔からよくみる俳優です。映画『ダークナイト』『プリズナーズ』然り。『ザ・スーサイド・スクワッド』のポルカドットマンは最高でした。なんだったのでしょうか。

不在の医療ベッド

不在の医療ベッドの脇で心電図モニターが音を鳴らし続ける異景が強く記憶に残っております。鼓動を記録する機械なわけですから、人がいなければ音を発するはずがありません。なのに鳴っている。ここに人がいたと、たしかに命は在ったと囁くように、少しけたたましく“不在”を響かせている。本作を手がけたマイク・フラナガン監督のNetflixオリジナルドラマ『ザ・ホーンディング』シリーズでは、ある邸宅が記憶の眠る場所として、登場人物の中心に据え置かれています。こちらも邸宅が“不在”のモチーフとなっており、幻想なる過去を予感させるミステリアスを醸します。ヴィルヘルム・ハンマースホイの絵画よろしく、しめやかに余韻や予感が漂う雰囲気は、筆者の好みでありまして、マイク・フラナガン監督作品の“なにかが起きた場所”“取り残された感情”といった過去に紐づく幻想で物語を駆動させるという作家性に惹かれます。

世界の終わり

雄大な夜空に瞬く星々のもとで男女ふたりが言葉を紡ぐ三章の幕切れのシーン。ひとつ、またひとつと星が消えていく。世界の終わり。怖れとか哀しみとかのたくさの感情が、仰ぎ見るふたりの中で渦巻くのが道理ですが、死の予感による生への諦めが反動となってはじき出すのが、ずっと手放さずにいた記憶だとすれば、その大切な時間に世界は収束し、感情は次第に醒めていき、残るのは清々しい気分だと思うのです。よく死生観の重要性が謳われますが、その気分に意識を向ける時間を増やすことに繋がるからではないのかと考えます。先述した散文詩で「世界の終わり」に潔い響きがあると書いたのは、人生の美しい時間がこれまでにないほど明らかになるのではないのかと思ったからなのかもしれません。

“一瞬”が、世界を決める、人生を満たす。そのような記憶があれば、生きていけます。

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おわりに

マイク・フラナガン監督作品、Netflixオリジナルドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』を以前ブログで紹介しました。よろしければご覧ください。Netflixドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』怖ろしく、美しく|マイク・フラナガン監督

掌編小説や散文詩をnoteで書いています。
ご興味があれば、ぜひご覧ください。

ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。

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