【新作映画】『あのこと』孤独への没入

(C)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA – WILD BUNCH – SRAB FILM

映画『あのこと』の感想/紹介記事です。

重厚な映画体験をまたもしてしまいました。
フランス映画『あのこと』ですね。ど!ヒューマンドラマとなっておりました。

女性の生理現象を扱った物語となっておりますので、男として人生をおくっている執筆者としては、アンヌの境遇を感じることに限界があります。ただ、真に迫るこの感動は、”孤独”が男女問わず、普遍のテーマだからでしょう。

今回は「孤独への没入」と題しまして、本作の余韻を言語化していきたいと思います。
初見感想となりますので、考察(これまでがそうだったか甚だ疑問ですが)というよりかは、映画を観て感じたことをそのまま綴った文章になりますので、あしからず。

(※おおいに執筆者の主観がまじっていることをご留意ください)
(音声はこちら→『あのこと』孤独への没入

スポンサーリンク

あらすじ

アンヌの毎日は輝いていた。貧しい労働者階級に生まれたが、飛びぬけた知性と努力で大学に進学し、未来を約束する学位にも手が届こうとしていた。ところが、大切な試験を前に妊娠が発覚し、狼狽する。中絶は違法の60年代フランスで、アンヌはあらゆる解決策に挑むのだが──。

映画『あのこと』公式サイト STORYより

「中絶」というセンシティブな内容が含まれているために、心して観なければならない映画であることは間違いありません。

カメラワークが特徴的で、主人公アンヌを追いまくる、表情を撮りまくる!です。

車酔いならぬ映画酔いするほど、映像が動く/揺れる映画は、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督作品を彷彿とさせます。たえずカメラが主人公の動きや表情、視線をとらえる演出は、その人物への共感を呼ぶ仕掛けとして機能しているように思います。
(あわせて読みたい記事→【映画】『イゴールの約束』『ロゼッタ』感想【ダルデンヌ監督作品】)

アンヌの人生に没入する映画体験が味わえるのです。

スポンサーリンク

孤独への没入

今作を鑑賞し、わたしの心を領した言葉が”孤独”であります。当ブログでは度々それについて書くことが多いです。執筆者の関心事だからですね。
以前の特集記事(→【U-NEXT】特集 ”孤独”を癒すヒューマンドラマ映画5選【おすすめ】)もよかったら覗いてください。

いかんせん執筆者は孤独がデフォルトな人生をおくっているが故、映画の登場人物にそれを見出しやすい節があるのです。そのなかでも、今回のアンヌの孤独は凄まじかった。抱える問題がセンシティブであることに加え、社会的にタブーであるということ。気楽に相談も出来なければ、社会にも寄る辺がない状況のなか、孤軍奮闘するアンヌであります。

そして、奮闘する理由が「”自分”の人生を捨てたくない」であります。この至極真っ当で切実な想いが、「妊娠」という出来事によって瓦解していくさまが描かれる。

このアンヌの現状から、一つの問いが発生するように思うんですね、それが…

自分の人生を犠牲にしてまで大切なものが、この世にあるのか?

この問いの回答をアンヌは既にもっていました。答えは否、そんなはずはないです。

しかし、”アンヌの意思”と逆行する”社会”が立ちはだかるという構図。

映画では”社会”の描き方が巧妙でした。アンヌの人生を上述したカメラワークで追います。そこにあらゆる人物を介入させる。
⇒両親、友人、先生、医師、消防士…等々
まるでクリボーのようにアンヌをとりまく人物を繰り返し登場させることで、アンヌの孤独をかたどります。出来事を知って離れていく友人や、「妊娠してるなら、ヤリたい放題じゃん」みたいなこと言う男もいますから。

誰もが何にもわかってくれない。
孤独が”理解されないこと”に起因するものだとしたら、アンヌのそれは凄まじい。

物語では、徹底してそこを描いたうえで、どうにか「中絶」しようとするアンヌを映しだしています。
自分の人生を守ろうとするアンヌの行動が壮絶であればあるほど、人生の”孤独”が強調される。

この孤独感にすごく感動するんですよね。
人生ってそうだよな。人が人にできることには限界があるような~って。

ただ、そこで立ち上りますのが、もうひとつの言葉、”自由”であります。
「自分で何とかしなくちゃいけない」とは、「自分次第で何とかなる」というような自由の裁量を感じることにつながり、ひいてはそこに希望が含有される。

孤独に苛まれているからこそ、仄かなる自由への希望が光輝く。アンヌの奮闘に、孤独が翔けり得る自由をみます

今作で見逃せないのがアンヌと両親。アンヌが母親に頬を叩かれるシーンがあり、からのアンヌ・母親・父親の3人で微笑みあうシーンが描かれるんですが、その文脈が美しい。アンヌの母親とは、いわばこの物語のバッドエンドな顛末の生き証人であります。アンヌからすれば「自分の人生を捨てた人」です。

しかし、アンヌの想いと対立するような人生をおくる両親が、アンヌの世話をしてきたこと、アンヌと共に微笑んでいるということ。

自分の人生を犠牲にしてまで大切なものが、この世にあるのか?

この問いにアンヌの両親は、どう答えるのでしょうか。

スポンサーリンク

まとめ

フランス映画『あのこと』。たいへん真に迫るテーマを扱った物語でした。”孤独”というものが万国共通であることを確認すると同時に、ひとりの人間が切り開く人生の”希望”も感じることのできる素敵な作品でした。

・孤独な人
・人生を考えたい人
・重厚なヒューマンドラマが好きな人
におすすめです。

ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。

コメント