【映画】『マンチェスター・バイ・ザ・シー』拒絶と干渉の狭間で

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映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の感想記事となります。

今作は2017年アカデミー賞で
主演男優賞(ケイシー・アフレック)
脚本賞(ケネス・ロナーガン)
をそれぞれ受賞した作品であります。

ちょーヒューマンドラマですね。派手な演出もなく、盛り上がるシーンはほぼないように思います。

けれど、人の繊細な部分が丁寧に描かれており、人によっては心をワシ掴みされること間違いなしの作品です。

(※おおいに執筆者の主観がまじっていることをご留意ください)

(あわせて読みたい記事→【U-NEXT】特集 ”孤独”を癒すヒューマンドラマ映画5選

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あらすじ・解説

「ジェシー・ジェームズの暗殺」「インターステラー」のケイシー・アフレックが主演し、心を閉ざして孤独に生きる男が、兄の死をきっかけに故郷に戻り、甥の面倒を見ながら過去の悲劇と向き合っていく姿を描いたヒューマンドラマ。「ギャング・オブ・ニューヨーク」の脚本で知られるケネス・ロナーガンが監督・脚本を務め、第89回アカデミー賞では作品賞ほか6部門にノミネート。アフレックが主演男優賞、ロナーガン監督が脚本賞を受賞した。プロデューサーにマット・デイモン、主人公の元妻役で「マリリン 7日間の恋」のミシェル・ウィリアムズ、兄役で「キャロル」のカイル・チャンドラーが共演。アメリカ、ボストン郊外で便利屋として生計を立てるリーは、兄ジョーの訃報を受けて故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻る。遺言でジョーの16歳の息子パトリックの後見人を任されたリーだったが、故郷の町に留まることはリーにとって忘れられない過去の悲劇と向き合うことでもあった。

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静かに淡々と物語がすすみます。

この映画全体の雰囲気がリー(主人公)の心情とうまくマッチしていて、暗いんですよね、終始どんより。女性からのアプローチにも興味を示さない。たのしんで何かに取り組んでいる様子もない。と思ってたら、酔った勢いにまかせてケンカをおっぱじめる。

心をふさぎ込んで、孤独に抱えきれないものを抱えている、そんなリーを軸に話が展開していきます。

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人との距離について

リーの仕事はアパートの便利屋です。各住民のお宅にあがり、配管工事やペンキ、ごみ捨てや電気修理…なんでもやります。

冒頭、業務に取り組むリーと日常生活をおくる住民の様子が映されます。快く思う住民、罵る住民、世話ばなしをしたがる住民。彼らに対し心あらずな感じで接するリー。

他人の人生に関与はするが、関心がない

というリーの態度をを示しているように思います。あまりに無関心なんですよね。

彼がそういう性格だからというわけでもないんですね。この映画は物語の展開とともに、リーの回想シーンが度々うつされます。”過去”と”現在”のリーの対比をみせているわけですが、まったくの別人なんですね。過去のリーはかなりのお調子者のようです。

では、なにがあったのか。
…ネタバレになりますので控えますね。

とりあえず、現在のリーは鬱屈としている、人との交流に消極的です。映画全体の雰囲気がこのリーの心境にうまくリンクしているように思います。

過去と現在のリーを並行して描き、対人交流の違いを際立たせることで、人との距離感についてがテーマであるということに気づきます。

人が人と接するときの距離感。みなさんは、その距離をどう調整していますでしょうか。

わたしの場合は、価値あるものを除けば浅い付き合いを心がけます。

「君子の交わりは淡きこと水のごとし」

価値あるものは人に十人十色。で、リーの場合はその価値の範囲が極端に狭いんですね。

アパートの住人
病院の医師
看護婦
葬儀屋
弁護士
酒場の人たち
パトリック(義理の弟)
パトリックの友人
アイスホッケーのコーチ
仕事仲間

義理の姉
ランディ(元妻)
娘たち
…この物語では、たくさんの登場人物があらわれます。

おおくの人物を登場させリーとの交流を描くことで、リーの孤独を一層際立たせ、人による関係性の濃度が描写されています。

誰に、何を、なぜ、話すのか。
拒絶干渉のバランスをいかにしてとるべきなのかを考えさせられます。

また、リーの孤独をドラマチックに解決していないのがこの映画の特徴かと思います。淡白なリーの対人交流のように、物語の展開も淡々としているんですね。

人の悩みが爽やかに解決されるような展開は現実ではありえない。って感じでちょーリアリスティックな映画。

たしかに、って思うんです。共有しえない孤独を、誰かが決定的な解決をもたらしてくれるものではない。むしろ、邪魔になることが多いのではないでしょうか。

だから、ひとまず孤独になっているんであって…的な感じ。

そこの点に関して、リーとパトリックの関係性は絶妙でした。距離感がある、限界をわきまえている、親戚であろうと関係ない。それでも、時間をただ共有することで、冷えきった関係性にだんだんと温もりが生じはじめる

このことに関しては以前とりあげた映画『流浪の月』所感の記事と内容が重なります。

距離感のベクトルの極端には孤独があります。孤独→死の連想は、心理学的にも妥当なようです。その現実と向き合いつつ、それでも、生きるさっていうメッセージをこの作品から受け取りました。

人との距離感に注目してみると、よりおもしろい映画だと思います。

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まとめ

孤独な者同士が、どう関わっていくかを描いた映画でした。

派手な展開はなく、静かな物語ですが、余韻が残ります。生きていくのがつらくても、ちょっとした関係性にある、ちょっとした温もりに希望があるのかもしれません。

・疑心暗鬼になっている人
・罪悪感が払拭できずにいる人
におすすめしたい作品です。

ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。

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