今回は吉田恵輔監督がメガホンをとりました映画『ヒメアノ~ル』と『犬猿』の感想記事をしたためていきます。
2022年6月21日には新作の『神は見返りを求める』が公開されます。すごく楽しみですねー、『ヒメアノ~ル』で怪演されていたムロツヨシさんが、またもぶっ飛んでる予感。
吉田監督の映画の特徴は…
・人が思っていても口にしない(行動しない)ことを、ユーモラスにときに残酷に描き出す
・ジャンルのジェットコースター
・ブラックユーモア
って感じだと思っております。
今回紹介します『犬猿』がまさにだったのですが、冒頭から別の映画と間違えたって思っちゃうぐらいベタなラブコメ映画の予告がながれるんですよね。で、突然のカットがかかって、車を運転しながら、あきれた視線をおくる人物の姿をうつしだす。アンチラブコメなのかな、とりあえず、そういう映画はつくらねぇぞっていう姿勢が伝わります。
現実もそうですよね。ラブコメのようなうまい話しはない、気持ちいい人生はない。人生はもっとこう…みたいな感じで。
それでもですね、吉田監督の作品はただシニカルなだけではなくて、最後にはちゃんと…人間おもしろってなる。
すごく上質な人間ドラマを映画にしてくださる監督、そう思っております。
(※おおいに執筆者の主観がまじっていることをご留意ください)
『ヒメアノ~ル』
あらすじ・解説
「行け!稲中卓球部」「ヒミズ」の古谷実による同名コミックを、「V6」の森田剛主演で実写映画化。森田が、次々と殺人を重ねていく主人公の快楽殺人犯・森田正一役を演じ、「純喫茶磯辺」「銀の匙 Silver Spoon」などを手がけた吉田恵輔監督がメガホンをとった。平凡な毎日に焦りを感じながら、ビルの清掃のパートタイマーとして働いている岡田は、同僚の安藤から思いを寄せるカフェの店員ユカとの恋のキューピッド役を頼まれる。ユカが働くカフェで、高校時代に過酷ないじめに遭っていた同級生の森田正一と再会する岡田だったが、ユカから彼女が森田にストーキングをされている事実を知らされる。岡田役を濱田岳、ユカ役を佐津川愛美、安藤役をムロツヨシがそれぞれ演じる。
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人生の不条理
ジャンルの横断がすごいです。
ラブコメ
→クライムサスペンス
→ヒューマンドラマ
といった感じ。
前半は岡田と阿部、安藤の三角関係のラブコメがメインです、すごく楽しめます。ただその間、不穏な男、森田の存在がちらつきます。そして、中盤、忘れた頃にうつしだされるタイトルバックとともに、森田の陰気な表情をうつします。ラブコメとはなにやら違う毛色の映画だと気づくんですね。
リード文で上述しました、突然のカット~と重なるのですが、前半をラブコメでひっぱり、中盤からクライムサスペンスへと様変わりしていきます。
ジャンルを横断させる構造⇒人生そのもの
わたしたちの人生には、ラブコメ映画のようなこともあるかもしれませんが、思い出したくもない、つらく暗いこともたしかにあったでしょう。これからたくさんの人と出会い、恋愛をするかもしれないけれど、その可能性があるのなら、人を殺したくなるくらい恨むこともあるかもしれない。
日常に愛があるなら、当然にその逆もある
って感じで、ちゃんと人間の暗部に迫っていきます。
愛 → 安藤
暗部 → 森田
で対比がされているように思います。
安藤が失恋して(同時に裏切りでもある)チェーンソーで殺したくなるくらい岡田を恨みますが、決してブラックユーモアの域を超えません。
森田の場合は違くって、思いっきりブラックブラックしてるんですよね。
映画『ジョーカー』では、コメディの延長線上にある狂気が描かれていました。今作もそれに似ていると感じます。
喜劇と悲劇は紙一重。
喜劇性(ラブコメ) → 安藤
悲劇性(クライムサスペンス) → 森田
という構図ですね。
そしてどちらも起こりうるのが人生。片方のみなわけがない。なぜなら、人生は不条理だから。
で、その不条理の根源にはなにが…。
考えていきたいものですね~。
『犬猿』
あらすじ・解説
「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔が4年ぶりにオリジナル脚本でメガホンをとり、見た目も性格も正反対な兄弟と姉妹を主人公に描いた人間ドラマ。印刷会社の営業マンとして働く真面目な青年・金山和成は、乱暴でトラブルばかり起こす兄・卓司の存在を恐れていた。そんな和成に思いを寄せる幾野由利亜は、容姿は悪いが仕事ができ、家業の印刷工場をテキパキと切り盛りしている。一方、由利亜の妹・真子は美人だけど要領が悪く、印刷工場を手伝いながら芸能活動に励んでいる。そんな相性の悪い2組の兄弟姉妹が、それまで互いに対して抱えてきた複雑な感情をついに爆発させ……。和成役を「東京喰種 トーキョーグール」の窪田正孝、卓司役を「百円の恋」の新井浩文、由利亜役をお笑いコンビ「ニッチェ」の江上敬子、真子役を「闇金ウシジマくん Part3」の筧美和子がそれぞれ演じる。
映画.com
人間の腹の底
家族で観れない映画特集を組むならミヒャエル・ハネケ監督の『ハッピーエンド』と、この『犬猿』はいれますね。
どちらも共通して人間の腹の底については、どんなに距離の近しい存在であっても共有しえない。ってことを描いているように思います。
だからこそ…
『ハッピーエンド』 → 孤独
『犬猿』 → 衝突
が生じてしまうって感じですね。
『犬猿』の登場人物に関してをまとめると…
和成 ⇒ イケメン
卓司 ⇒ 暴力
真利亜 ⇒ 頭いい
真子 ⇒ カワイイ
という優位性(=物事に優れた点がある様)があります。
頭いい人が学者になる
足速い人が陸上選手になる
みたいな感じで、当然にこの優位性をもってして生きています。
そこで問題になってくるのは、その優位性がゆえの嫉妬です。そこから衝突がおきる。
比較して劣っていると自覚し、そこに加害性を感じることで、「見下してる」や「バカにしてる」となる。
これは真意が暴かれることがないゆえに、止まることがありません。ラストの顛末はそういうことを意味しているのだと思います。
心理学の本で、
嫉妬の心理に関してのポイントは…
・関心の大きさ
・関係性の近さ
の2つだとありました。
関心については、その人がなにに価値をおくかですね。劇中では…
和成と卓司 → 経済的豊かさ
由利亜と真子 → 恋愛
そして、関係性についてはどちらも兄弟ということで共通してて、近い関係性です。
腹の底が分からない→嫉妬(思い込み)→衝突
ってながれがあるんですね。
ただ、そうしたぐちゃぐちゃでドロドロなやりとりの中にすら美しさを覚えてしまうのがこの作品の魅力。
上述した突然のカット~が効いているんですね。この映画の冒頭はラブコメの予告映像ではじまり、急なカットで運転をしている和成の姿がうつされます。
理想 → 現実
をあらわしているように思うんですが、中盤、和成と真子の遊園地での会話シーンでもそれと似たような演出がなされています。
どんな内容の会話だったかというと…
お互い、自分の兄弟、姉妹の良いところ(真意)を話している。そこでカットがはいる。
冒頭との対比からすれば…
和成と真子との会話 = 理想
ということとなります。
人間の暗部のみならず、美しい部分を強調した演出だと思います。
ツンデレな映画ですね。
まとめ
吉田恵輔監督の『ヒメアノ~ル』『犬猿』をとりあげました。
どちらも中盤で、映画の雰囲気、ジャンルが変化するってところで共通していますね。映画『神は見返りを求める』でも予告からして、そうした演出がなされていそうです。
人間の諸相と映画のジャンルをぐちゃぐちゃにしているところに、人生ってそもそもそんな感じだよな~ってなります。
混沌とした人生を描きつつ、人間の触れてほしくない普遍性を浮き彫りにする
そんなフィルモグラフィだと思っております。
ただ、そんな悲哀を生々しく描きつつも、そのままの生々しさで、そこにこそある人間の美しさをみせてくれる。
そんなところは、ダルデンヌ兄弟の映画に近いと思います。
⇑『その手に触れるまで』はまさにそれ。
映画においてリアルな人間が描かれることで、わたしのような真意を包み隠す人間にとっては、痛烈に感動と面白みを感じるんですよね。
・ブラックユーモアが好きな人
・皮肉が好きな人
・他人の言うことばっか聞いている人
におすすめです。
ここまで読んでいただき、
ありがとうございました。
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