
丘陵はのび、萎びた草木は定めを待ちわび凝然としていた。外灯がぽつりぽつりと地べたを照らしていなければ、そこは常闇に覆われた世界の淵。茫々たる時間のみが堆積し、空恐ろしい虚しさに満ちていた。
強風による安全確認のため、列車はしばらくのあいだ停車していた。三十分は優に越している。暖房が効いているとはいえ、身体の芯があたためられることはなく、手足の指先は乗車してからずっと冷たいままであった。せめてわたし以外の乗客がいてくれさえすれば、熱気で幾分あたたかくなったかもしれないのだが、夜半の辺境の地において、この望みが不毛であることは疑いようもなかった。アパートの室外機は、いまもけたたましく振動しているのだろうか。不毛という言葉に惹起されて、日常における悩みの種が思考を巡った。102号室は地続きであるわけだから、室外機が窓のすぐそばに設置されてしまうのは仕方のないことである。けれども、101号室と103号室の室外機までもが近接していることには頭を抱える。ほとんど決まった時間にそれぞれが駆動しては静止を繰り返す。住人の存在と生活リズムを嫌でも意識せざるを得ない暮らし。隣室のよしみで仲良くなっていればましに思えるのだろうが、顔を合わせたことすらないために、気心知れることはなく、もどかしい。
横滑りに開いた貫通扉。ひとりの女を目路でとらえた。艶やかな肌、澄んだ半眼、黙と閉ざした唇。英国風トラッドの装いは品位を護衛しているかのよう。花の香りが立ち籠める。その放逸な流れは、なぜだか鼻尖を撫でるのをやめなかった。車両は深々となった。稀に訪れる世界とわたしとを象るあの閑寂ではなく、他者の介在により生じた張り詰めた空気がまにまに醸す静けさに近い。気がつくと、向かいの席に女が腰掛けていた。両の眼は獲物に狙いを定める野獣の気迫に満ち、わたしの肢体のあらゆる箇所を鋭く穿っているのだが、不思議と悪い気がしないのは、その透徹とした眼差しに人並ならぬ威光を認めたからであった。動揺を鎮めるために車窓の外に目をやると、子どもの背丈ほどある草木が得体のしれない動物を隠蔽するかのように繁茂し、その先では松林が暗がりの帳の中で眠りについていて、上のほうで群生する夥しい雲が玄妙なる在り様の庇護者となって月のあかりを予感させていた。二人を結ぶひと時の密度に、言葉を逸した。水滴がガラス窓にゆっくりと痕跡をつくっていく。時折風に煽られて予期せぬ屈折をみせるのだが、たいていの場合は自在であった。わたしも自由であった。
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続きは、noteに。


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